ぼくは六歳だった。兵庫は伊丹駅。午後8時。おじと駅
前をとおりかかったときのこと。
駅前に茶色の毛布をひいて一人の老婆が座っていた。ブ
ツダンによくあるちーんというアレをちんちんやりなが
ら老婆はネンブツをとなえていた。
ぼくはもう驚愕した。その老婆のネンブツが「かーねーを
ーく、れー」という節だったからでも、ぼくをにらみつけ
たその目のかたほうだけが異様におおきかったからでもなく、
「おお、お母ぁん、こんなとこでまた念仏唱えてぇ。はよう
帰らんかぁ」
とおじがいったからだ。
おじはそういうと財布から千円札をだして例のチンチンの中
に入れた。
「おおの、おおの、こりゃ、あんたは孝行息子やぁ、へぇへぇ」
四国なまりの老婆は歯のない口でわらった。
ぼくはほんとうにびっくりした。あの人はおじさんのお母さ
んなのか!!と。
おじはガハハハと笑ってぼくの手をひいてその場をたちさった。
いまはそれが冗談のやりとりだったとわかるが、そのときはま
ったくわからなかった。トラウマになるくらいの衝撃をうけた。
大きくなってからおじさんにその話をしたとき、おじは
「あれが満州で生き別れた実の母で。。。」と落語家のような口
調でまだいっていた。それからふいに
「駅の蛍光灯はあれやなぁ、ありゃ、白すぎんか?」
といった。
the shakers (yuji)
No comments:
Post a Comment